便秘外来について

便秘外来について

便秘の患者さんの数は、全人口の1割程度と非常に多いです。慢性便秘症は、女性に多いものと思われていますが、高齢化社会を迎え、60歳以上では、徐々に男女差がなくなり、80歳では男性が女性を逆転することが明らかになっています。(平成25年国民生活基礎調査より)

便秘外来について

しかし、不快な便秘を抱えていることによる日常生活の質の低下や、腸や肛門への負担増による様々な障害の発生(虚血性腸炎や痔の増悪)、さらには全身への悪影響と、便秘は時に心身の健康を大きく損ねてしまう場合があります。

便秘の方の中には、大腸癌などの重篤な疾患が隠れていることがあり、「たかが便秘」と思い、大腸カメラなどの検査を受けず、放置し、手遅れになる場合もあります。(大腸カメラについて参照)また、効果が高いからと市販薬に頼っている方も多いと思います。

当院では、大学で慢性便秘症と腸内細菌の関りや潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患の研究を行ってきた院長が、便秘外来を設け、患者様それぞれの症状に対して、知識を共有し、適切な診療を行っていきます。また便秘の背後に大腸癌などの重篤な病気が隠れていないか等、初期症状から詳しい検査まで行っていきますので、お気軽にご相談ください。

Sugitani Y et al. J Clin Biochem Nutr. 2021 Mar 68(2): 187-192.
Sugitani Y et al. Journal of Gastroenterology 2020 Mar10(6):337-341.

便秘とは

便秘とは、"本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態"と定義され(慢性便秘症診療ガイドライン2017)、「何日出なかったら便秘」というような、期間や回数に関する明確な定義ではなく、毎日出ていたとしても、少量のみで、不快な残便感があったり、お腹が張っていたりということがあれば、それは便秘と考えられます。それぞれの患者様が排便において、スッキリとしない不快感を持っていれば、それが診断基準となります。

以下のような症状がありましたら、お気軽にご受診ください。

  • 便が硬く排便しづらい
  • お腹が張って苦しい
  • 便に血液が混じっている
  • 3日以上排便がないことがある
  • 排便後もすっきりせず、残便感がある
  • 下剤に頼らないと便が出ない
  • 常に下剤を飲んで下痢状態になっている
  • 下剤の効き目が薄くなり、次第に量を増やしている
  • 下半身にむくみがある
  • 便秘とともに肌が荒れてきた

など

便秘の原因について

便秘の原因は非常に様々です。風邪薬(咳止めであるコデインリン酸塩水和物又はジヒドロコデインリン酸塩)の服用後やバリウム検査後に一時的に便秘になる急性のものもありますが、一般的に便秘と言えば慢性的な疾患です。その慢性的な疾患にも、大腸癌や腹部術後、肛門の疾患、パーキンソン病などの神経疾患や甲状腺機能低下症などの内分泌・代謝疾患、薬剤性など、他の病気が原因となって引き起こされる「続発性便秘」と呼ばれるものもあります。

一般に多く見られる慢性便秘の原因としては、水分摂取量の不足、運動不足、繊維不足な食事などの生活習慣、ストレス、ダイエット等による極端な少食などが考えられています。また、睡眠不足など生活のリズムも便秘には大きく関わっています。

因みに「続発性便秘」以外の便秘については、これまで「機能性便秘」として、以下のように分類されていました。

機能性便秘

弛緩性便秘
腹圧、腸管の蠕動運動など、加齢などが原因で、排便機能が低下することにより、便をうまく押し出せなくなって引き起こされる便秘です。高齢者に多くみられるものです。
痙攣性便秘
腸管の蠕動運動が高まり過ぎることが原因で起こります。 便はウサギの便のようにコロコロとした状態になるのが特徴で、主にストレスが原因と考えられています。過敏性腸症候群などが代表的なもので、他には刺激性の下剤を多量に服用した際にもみられるものです。
直腸性便秘
便意は、便が直腸に到達し、直腸を拡げることで脳に信号が送られて起こります。しかし便意を催してもすぐにトイレに行けず、我慢してしまうことが多い場合、それが習慣的になってしまうと、直腸の排便反射が低下し、発症することがあります。その他、過度に浣腸を使用したり、シャワートイレで強力な水圧により、水を直腸内に多量に注入して排便したりしていると、発症する場合があります。

ただし近年では、“腸管の通過時間”によって、以下のような分類が採用されています。

結腸通過時間正常型
直腸までは問題なく便が到達しますが、便意が低下していることで起こるものです。
結腸通過時間遅延型
大腸の蠕動運動が低下し、便が直腸まで到達するまでに時間がかかってしまうものです。
便排出障害型
排便機能の低下などが原因で発症し、いきんでもなかなか排便できないものです。

上記のように、便秘の原因は様々であることが分かりますが、そのリスクの多くは日常生活の中に潜んでいます。たとえば朝食をとらないという習慣です。夜間、働いていなかった胃に朝食で食べ物が入ると、その刺激で腸が活発に働き始め、排泄へと動き出します。朝食を抜いてしまうと、直腸や結腸反射、胃、大腸の反射という排便を促すシステムが正常に機能せず、便意が起こりにくくなってしまいます。この状態が長く続くと、自律神経の機能が低下し、慢性便秘症となってしまいます。

自律神経は腸の働きを司っているものですので、人間関係や仕事、環境の変化等によるストレスにより感情に変化が起こると、自律神経に乱れが生じ、便秘が引き起こされる場合もあります。また女性ホルモンが腸の運動に影響を及ぼすことが知られており、大腸の蠕動運動への抑制作用がある黄体ホルモンが活発になり、排卵から月経までの時期は便秘になりやすくなります。さらに女性は男性より筋力が弱く、胃や内臓が下垂している人も多いため、大腸の蠕動運動が弱いと言われています。高齢男性も、筋力が低下すること、男性ホルモンの低下により、便秘の罹患率が増加します。これは、腸内細菌が女性に近づくことが動物実験で報告されています。

Harada N et al. Scientific reports 2016 Mar10(6)

続発性便秘の原因としては、以下のようなものがあります。当院では、便秘症状の診療にあたり、以下のような病気が隠れていないかどうかも、丁寧に診ていきます。

続発性便秘

器質性便秘
癌、手術後の癒着などが原因となって、便が出にくくなるものです。手術が必要になる場合があります。
肛門直腸疾患
痔や肛門狭窄などが原因となり、排便が困難な状態となって引き起こされます。
その他
パーキンソン病などの神経疾患や筋疾患に伴う便秘があります。 また糖尿病、甲状腺機能低下症などの内分泌・代謝疾患に伴うものや、向精神薬、降圧剤などの薬剤の副作用によって起こる便秘などもあります。

便秘の検査について

便秘の検査としては、血液検査、腹部レントゲン検査、腹部エコー、CT、大腸カメラなどがあります。

血液検査

便秘になる基礎疾患の有無を調べるものです。糖尿病や甲状腺機能低下症、また下剤を飲みすぎで下痢が続いている場合の電解質異常も血液検査で評価することができます。

腹部レントゲン・腹部エコー・CT

消化管の中を客観的に調べるための検査です。お腹に便やガスが溜まっている場合、その量や分布などを確認します。便やガスが肛門に向かって移動しない、腸閉塞の有無も確認できます。CTについては、当クリニックでは施行できないため、近隣施設での検査を予定させて頂きます。

大腸カメラ(大腸内視鏡検査)

大腸ポリープ、大腸癌や潰瘍性大腸炎、虚血性腸炎、憩室症など、腫瘍や炎症等、腸の表面に器質性の疾患の有無を調べることを主な目的として行います。また便秘薬(センナ、大黄、アロエなどの大腸刺激性下剤(アントラキニン系))を長期にわたって飲み続けた結果、大腸の粘膜に色素が沈着し、黒くなった状態(メラノーシス)がないかも確認できます。

便秘の治療について

便秘の治療としては、生活習慣の改善、および薬物による治療があります。市販薬の方が、効果があると思われるケースもありますが、市販薬は刺激性下剤が多く、これは腸管に刺激を与えすぎてしまい、腹痛を誘発すること、使用していくうちに効果が減弱することが問題となります。

生活習慣の改善

便秘の治療にあたっては、生活習慣の改善が非常に重要になります。水分不足を解消しただけで改善する場合もあります。しかし、便秘の原因は本当に患者様それぞれで、簡単ではない場合が多いのが現状です。食事や運動、睡眠、ストレスの有無などをみなおして、身体全体の調子を整え、便秘の改善につなげることを目指しましょう。

例えば食事指導では、腸内環境を整える食事などについてもアドバイスさせていただきます。ご存じのように、人の腸内には約500-1000種類、100兆個以上の腸内細菌が棲みついていると言われています。その腸内細菌には、善玉菌と呼ばれるものや、悪玉菌と呼ばれるものがあります。

便秘になると悪玉菌が増加することで腐敗物質が増え、腸の老化が促進されるなど、腸の機能が低下し、ますます便秘が悪化する場合があるほか、大腸癌などのリスクが高まることも分かっています。一方、善玉菌が増えると、悪玉菌の増殖を抑え、腸を健全な状態に保つことが分かっており、便秘の改善にもつながります。さらに善玉菌は、ビタミンやたんぱく質の合成、免疫力の向上、感染症予防、発癌物質の生成の抑制といった働きがあることも知られています。善玉菌が増えすぎると、逆に便秘になるケースもありますが、まずは腸を健康な状態に保つことが、様々な疾患を予防することにも繋がります。

食事では、肉類はタンパク質で、ほとんどが腸で吸収され、食物繊維が少ないため、便の量が減ります。便の量が減ると蠕動運動が弱まり、便秘になりやすくなると同時に、悪玉菌を発生させますので、摂り過ぎには注意します。一方、肉類は適量であれば動物性の脂が含まれており、排便に良いともいわれています。肉類特に加工肉は、大腸ポリープや大腸癌発症のリスクの報告もあり、注意が必要です。

一方、やはり野菜など食物繊維を多く含む食べ物は、便秘の改善に有効です。食物繊維は消化されず、そのまま腸に届いて便として排出されます。便の量が増えることで、便秘の改善につながるとともに、老廃物も一緒に排出します。また食物繊維は善玉菌の“エサ”となります。各種野菜に加えて、リンゴやバナナ、柑橘類などの果物、海藻、こんにゃく、納豆、キノコなどをとることが大切です。

また、ヨーグルトなどの発酵食品から善玉菌(ビフィズス菌など)を継続的に取り入れることで、腸にもともといた菌に良い影響を及ぼし、腸の働きを改善することにつながります。

薬物療法について

生活習慣を見直しで、便秘が改善する患者様も多くいらっしゃいます。たとえば水分摂取を増やしただけで改善した例もあります。しかし、生活習慣を見直しても、なかなか改善しない便秘があることも事実です。その場合、薬物療法を行います。当院では一人一人の患者様に合わせ、年齢や便秘の程度などを考慮し、使用する薬の種類や量を調節いたします。

下剤には多種多様な種類があります。分類としては、機械的下剤、刺激性下剤、消化管運動調整剤(自律神経に作用する薬)および漢方薬などがあります。その中から患者様の状況に合った薬を見つけることが便秘治療にとっては非常に重要となります。

同じ薬でも、効果に個人差がありますので。しばらく外来に通院していただき、種類や量を変更したり、増減したりしながら、一番合うと判断される薬と量を、患者様とともに探っていきます。

因みに便秘薬は、大きく2つに分けることもできます。それは、刺激性下剤と、それ以外です。刺激性下剤は、大腸の動きを刺激することによって便秘を改善する薬です。

刺激性下剤は強い効果が期待でき、しかも即効性がある薬です。多くの市販の便秘薬にも、刺激性下剤の成分が含まれています。ただし刺激性下剤の最大のデメリットは、長期間使うと耐性が出る可能性があることです。

同じ量を使用しても、効果が薄らぐため、次第に量を増やすことになり、エスカレートしていってしまいます。一度耐性がついてしまうとその後の便秘の治療が非常に難しくなるため、刺激性下剤を継続して使用することは避けることが大切です。

生活習慣の改善をベースに、薬物療法では非刺激性下剤を中心として治療を進め、刺激性下剤に関しては、どうしても急いで改善する必要がある場合のものとして使用していくのが良いと考えられます。便秘でお悩みの方は、市販薬を使い続けるのではなく、一度専門の医師にお気軽にご相談いただき、ご自身に合った便秘の改善方法を見つけてください。